No.75 フシグロの種つぼ

 金剛山のちはや園地では、11月になるとお花がぐっと少なくなります。色づく木々に交じって、アキチョウジ・アキノタムラソウ・リンドウといった青い花がぽつぽつと残る景色が、秋から冬へと移ろいを感じさせてくれます。そんな中、星と自然のミュージアムの横で、ハイカーさん達がしゃがみこんで、何かを撮っています。お目当てはフシグロ *1の花のようです。

写真 1 フシグロの花(ちはや園地)
写真 1 フシグロの花(ちはや園地)

 近づいてみると、ピンク色の小さな花が横向きについています(写真 1)。花びらがつぼ(壺)のように見える長いガク(萼)の先にちょこんとついていて、とても愛くるしいです。花をアップ(写真 2)で見てみると、花びらは5枚で、花びらの先が、角丸に切り抜かれたようにふちどりされています。花のまんなかには、少し長い3本のめしべ(写真 2(a))とヤク(葯)をつけたおしべ(写真 2(b))が見えます。また、花びらの付け根のあたりに、少しふくらんだ部分があります。花粉を運んでくれる虫の足場になるのかな?

写真 2 フシグロの花のアップ(ちはや園地)
写真 2 フシグロの花のアップ(ちはや園地)

 離れてみると(写真 3)、まっすぐに伸びた茎の背丈(40~60cmくらい)に比べて花の小ささがわかります。花の直径は1cmほどしかありません。フシグロの名前の由来は、茎の節の部分が黒っぽいことにちなんでいます。個体差があるようですが、写真 3(b)では確かに節のあたりが濃い赤紫色になってます。写真 3(a)では花が1つだけ、それ以外は、花が終わり実をつけ始めているところです。よく見てみると、赤紫色のガク(萼)から、緑色の大きくなった実(子房)が顔をのぞかせています。写真 3(b)には、もう花はなく、実が大きくなって、赤紫色のガクがとれ始めています。一番上についている実は、もう先が裂けて口が開いています。

写真 3 フシグロの全景(ちはや園地)
写真 3 フシグロの全景(ちはや園地)

 裂けた実をアップで見てみましょう(写真 4)。実の先が6つに裂け、裂けた部分がきれいに反り返って、道化師の帽子のようです。裂けて開いた口から小さな種が顔をのぞかせています。種が上までぎっしつまっていて種つぼ(壺)のようです。50個くらいは入っているのかな? 種をアップで見てみると(写真 5)、大きさは1mm位、人の腎臓のような形で、表面にはヤスリの目のような細かい突起があります。地面に落ちた時に、しっかりと土の中で留まるようにするためかな?

写真 4 フシグロの裂けた実(ちはや園地)
写真 4 フシグロの裂けた実(ちはや園地)
写真 5 フシグロの種
写真 5 フシグロの種

 ところで、気づかれた方がおられるかもしれませんが、花は横向きですが(写真 3a)、実はみんな上向きになってます(写真 3b)。フシグロは、花が終わり、実(子房)が大きくなり始めると、横から上へと向きを変えていきます (*2)

 小さな花が横向きなのは、花粉を運んでくれる虫が見つけやすくするためでしょうか? また、実が上向きなのは、風が吹いて茎が揺れた時に、実の中の種が、風の向きや強弱にあわせて、いろんな方向や距離に少しづつ落ちていくようにするためかなと思っているのですが、どうでしょうか?。フシグロの実は、見た目だけでなく役割からも、種つぼ(壺)なのかもしれませんね。

写真 6 フシグロセンノウの残り花と実(ちはや園地)
写真 6 フシグロセンノウの残り花と実(ちはや園地)

 ちはや園地を一回りしてみると、フシグロセンノウの花も少しだけ残っていました(写真6)。フシグロセンノウも、茎の節の部分が黒っぽいことにちなんで名づけられていて、フシグロと同じナデシコ科です(属は異なりますので遠縁でしょうか)。フシグロセンノウの実も、フシグロを同じように上を向き、先が裂け同じような形でした(写真 6b)。フシグロセンノウの種もフシグロを同じように小さくて、実は種つぼ(壺)と言えるかもしれませんね。つぼにしてはちょっと長くて口が広いかな。

 

 お花が見られなくなっても、色づいた木々、色とりどりの実や面白い形の種が楽しめます。府民の森をのんびり歩いてみるのはいかがでしょうか。

【補足説明】

* 補足1 フシグロ と ケフシグロ 

 葉や茎に毛のあるものはケフシグロと言われ、ちはや園地のフシグロも茎に毛があるので(写真 3a,3b)、ケフシグロのようです。両者の生態には違いがないようですので、ここでは、よく知られている名前としてフシグロにさせてもらいました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/フシグロ

 

* 補足2 ハコベも実の向きを変える

同じナデシコ科のハコベも、花が終わると下向きにかわり、実が割れるときに上を向くそうです。

続・生き生き植物観察記 p95

南光 重毅 神戸新聞総合出版センター 2015.4

https://www.amazon.co.jp/続・生き生き植物観察記-南光-重毅/dp/4343008363

<ます 2021/11/12

 

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