No.65 飛ぶことをやめた冬の蛾

 

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 先日、生駒山のなるかわ園地からの帰り道、フユシャクのメスを見つけました(写真1)。以前、レンジャー仲間のIさんから「冬に現れるフユシャク*1という蛾(が)がいて、メスは、翅(はね)が退化して飛ばないのですよ」と、教えてもらってから、冬が来るたびに気になっていました。

写真1 擬木柵にとまって交尾するフユシャク
写真1 擬木柵にとまって交尾するフユシャク

 2匹のフユシャクが道沿いの擬木柵にとまって交尾していました。右側の翅(はね)がないのがメスで胴体の長さは1cm位と小さいのですが、茶色の柵に白っぽい体が目にとまりました。しばらく様子を見ていても、全く動く気配がなく、その日は帰宅しました。

写真2 フユシャクのオスとメス
写真2 フユシャクのオスとメス

 うれしくなって、再び訪れてみたら、今度はオス2匹とメス2匹が、それぞれ違う柵にとまって休んでいました。

 オス(写真2左)の翅(はね)には黒い紋がついていて前回とは違う種類*2のようです。メス(写真2右)では前回と同じ種類かどうかはよくわかりませんが、やはり翅が全くありません*2。 フユシャクの顔をアップで見てみると、オスにもメスにも、ストローをくるくる巻いたような口が見あたりません。フユシャクの成虫には口がなく、1~2週間の寿命を生きる間、採食せずに過ごします*3

 

 では、飛ばないメスはオスとどうやって出会うのでしょうか? 

種類によって共有された気候や時間になると、オスとメスそれぞれが配偶行動を始めます。メスは木に登って静止し、尾を上下に動かし、尾の部分の毛の束を開いてフェロモンを出します。オスはくし形の触角(写真2では翅の下に隠れています)を出して、木の根本を飛びながらフェロモンの香りを頼りにメスを見つけます。(参考文献1)

 翅(はね)のないメスは柵にとまったまま動かないので、死んでいるのかなと思って、メスをクヌギの落ち葉にそっと移してみました。しばらくすると、1匹が動き出しました。ちょっと目を離していると見失ってしまいそうです。フユシャクは翅がなくても、意外に素早く移動できそうです。(動画1)

動画1 歩くフユシャクのメス
動画1 歩くフユシャクのメス

 フユシャクは、過去に起こった地球の寒冷化に適応し、暖かい季節に活動する種から、冬に活動するように進化してきたと考えられているようです。しかし、翅(はね)や口の退化については、理由も過程もまだよくわかっていません。フユシャク研究の第一人者の中島秀雄さんは、「産卵に多くのエネルギーが必要なメスで、体の表面積を小さくして外界の気温の影響を少なくするために、翅の縮小化が起こり、冬の少ないエサをとる困難さが口の退化を招き、エサを取らない事が、無駄なエネルギー消費を防ぐ事を進めて、メスの翅の縮小化を後押しした」、という仮説を述べられています。(参考文献1)

 

 フユシャクの多くは夜行性で、雪が積もるような寒冷の山地でも配偶行動を行います。とはいえ、夜の観察にはそれなりの準備が必要で、危険も潜んでいます。幸い、今回見つけたように、昼に交尾を行う事もあります。 

 近くの府民の森で、散歩がてら、冬の虫探しはいかがでしょうか。運よくフユシャクが見つかれば(参考文献2:フユシャクの探し方が詳しく書かれています)、その姿や行動に自然の不思議を感じてもらえますし、フユシャクが見つからなくても、冬を越す虫たちを楽しんでもらえると思います。(写真3)

 

 では、3密にならないようにお気をつけてお楽しみください。

写真3 柵のすき間に集まって越冬するキイロテントウ
写真3 柵のすき間に集まって越冬するキイロテントウ

【補足】

 

*1 フユシャクとは

フユシャク(冬尺)は種の名前ではなくて、幼虫が尺取り虫になるシャクガ(尺蛾)のうち、冬に成虫として現れて活動し、メスの翅が退化した蛾をさします。日本全国に35種類位います。成虫は、幼虫の食草となる広葉樹(コナラ、クヌギやサクラなど)などがある山地や里地に、11月頃から3月頃まで、種類に応じた時期に現れます。多くは夜行性で、夜に配偶行動を行いますが、日中でも見られることがあります。

 

*2 観察したフユシャクの種類

交尾していたのはウスモンフユシャク、単体のオスはクロテンフユシャクと思われます。単体のメスもクロテンフユシャクかもしれませんが、外見が似た種類がいて写真からは識別できません。ウスモンフユシャクもクロテンフユシャクも、メスの翅は完全になくなっていますが、フユシャクには小さな翅が残っている種類もいます。(参考文献3)

 

*3 フユシャク以外で口が退化した蛾

春先にコナラの木でよく見かける黄緑色の繭を残すウスタビガや、同じ仲間のヤママユガも、成虫には口がなく、採食をせずに過ごします。

 

【参考文献】

 

1)中島秀雄, "冬尺蛾 厳冬に生きる",築地書館(1986)

配偶行動については、3章 "フユシャクとの戦い" pp.84-95

進化の仮説については、7章 "なぜ寒さに強いのか" pp.177-214

 

2)川邊透, "冬に見られる不思議な蛾、フユシャクを探そう",

http://gogo.wildmind.jp/feed/howto/78

 

3)川邊透, "昆虫エクスプローラー フユシャク図鑑"

https://www.insects.jp/konbunfuyusyaku.htm

ます(2021/2/14)

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