No.98 柏餅の葉っぱ

写真1 柏餅(カシワの葉)
写真1 柏餅(カシワの葉)

 GWに入ると、和菓子売り場では桜餅に変わって柏餅が目立ち始めます。みなさんも端午の節句には柏餅を食べますよね。大阪育ちの私は、柏餅というと葉っぱの端が大きく波打ったカシワ*1の葉(写真1)しか知らなかったのですが、パークレンジャーの仲間からサルトリイバラ*2を使った柏餅(写真2)がある事を知りました。

写真2 柏餅(サルトリイバラの葉)
写真2 柏餅(サルトリイバラの葉)

 端午の節句に供えられる柏餅については、各地で柏餅に利用される植物をその地の植生との関係で詳しく調査されています[1]。大正末期から昭和初期の食生活の記録を基礎資料として調査され、西日本ではサルトリイバラ、関東地方ではカシワが多いと報告されています(図1)。

図1 かしわもち型とちまき型に利用する植物の分布(参考文献[1]の図1を引用)
図1 かしわもち型とちまき型に利用する植物の分布(参考文献[1]の図1を引用)
写真3 葉が枯れ始めたカシワ (大阪府営山田池公園11月下旬)
写真3 葉が枯れ始めたカシワ (大阪府営山田池公園11月下旬)

 その文献によると、”端午の節句の柏餅は、17世紀ごろの江戸の武家社会に始まり、参勤交代などを通じて全国に伝わったと推定されています。カシワを使ったのは、枯れた葉が翌年春の新葉展開まで枝についている(写真3)ことから、家系継続の象徴と考えられた”からだそうです。ただ、”西日本では、サルトリイバラなどの葉で包んだもちが古くより存在し、端午の節句に「かしわもち」を供えるという新たな風習が取り込まれても、カシワが身近な里山に自生していないので、在来の葉で包んだもちとは置き換わらなかった”のではないかと考えられています。

 

 確かに、府民の森では自生のカシワを見た事がありませんが*1、サルトリイバラは普通に見かけます(写真4)。また、カシワの葉に似たナラガシワ*1(写真5)は枚岡公園の展望台や中部園地(例えば、みずのみ園地からアキグミの橋にかけて)で見かけますが、サルトリイバラほど多くなく、カシワの代用品として使われなかったのかもしれません。

 2020年の春に、大阪市立自然史博物館の方がSNSを用いて柏餅の葉っぱしらべを行なっています[2]。さきほどの調査と比べると、京阪神や福岡などで、カシワの葉が増えています(図2、茶色:カシワ、緑色:サルトリイバラ、はさみ:型抜き)。”関東のカシワ系柏餅が「かしわもち」として定型化し*3、西へ波及しているのかもしれませんと”、分析されています。確かに、全国展開している和菓子のお店では、柏餅はカシワの葉が使われています。でも、道の駅のように地産地消の商品も人気ですので、地域それぞれの特徴を活かした「かしわもち」が復活してくるかもしれませんね。

図2 柏餅の葉っぱしらべ(2020年5月)参考文献[2]を引用掲載

(茶色:カシワ、緑色:サルトリイバラ、はさみ:型抜き)

 柏餅の葉が、流通の発達だけではなく、地域それぞれの食文化や植生などの自然との関わりを通して、長い時間をかけて選ばれているのは興味深いです。今回は、地味な葉っぱの写真が多かったので、サルトリイバラ、ナラガシワを幼虫の食草とするチョウの写真をのせておきます。

(ます 2023/05/1)

【より深く知りたい方へ】

 

*1 カシワとナラガシワ

どちらもブナ科コナラ属の落葉高木、カシワは北海道~九州の山野のやせ地や礫地、海岸に生え、ナラガシワは岩手・秋田県以南~九州の山地に生える。両者の葉の形は似ているが、カシワは葉柄がほとんどなく、ナラガシワは1~3cmの葉柄がある。

出典)葉と枝による樹木検索図鑑 

https://elm3.web.fc2.com/top/ruijisyu-miwakekata-hoka/kasiwa-konara-mizunara-naragasiwa.html

 

大阪のカシワとナラガシワについては、以下の記事が参考になります。

出典)大阪百樹 ナラガシワ

 

https://www.ne.jp/asahi/osaka/100ju/Naragashiwa/Naragashiwa.htm 

 

*2 サルトリイバラ

高さ70cm-2m、疎にトゲ、雌雄異株、7mmの紅色の果実をつける。名前の由来は、猿が刺に引っ掛かりそうに見える事から。近縁のドブクリョウ(土茯苓)の和名をサンキライということがある。

出典)牧野日本植物図鑑 インターネット版

http://www.hokuryukan-ns.co.jp/makino/index.php

 

*3  現在では、カシワの葉が韓国,中国より輸入され、安価で大量のカシワが確保されいることが、全国的な普及の一因になっている。

出典)参考文献[1]

【参考文献】

[1] 服部保、南山典子、澤田佳宏、黒田有寿茂,

かしわもちとちまきを包む植物に関する植生学的研究,

兵庫県立人と自然の博物館 人と自然 No17,1-11 Jan.2007

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hitotoshizen/17/0/17_1/_article/-char/ja/

 

[2] 石田 惣,

柏餅の葉っぱしらべ,

大阪市立自然史博物館 動物研究室, 2020年5月13日

https://sites.google.com/view/kashiwamochi/

 

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