ー のれんの向こうは山の春 ー
4月初め頃に金剛山を登っているとキブシの花が目に留まります。お店がのれんで営業中を知らせるように、枝から垂れ下がった黄色い花が、「山の春が始まってますよ!」と、ハイカーに知らせてくれているようです(写真1)。
キブシの花は横に伸びた枝の先の方に数本がかたまって垂れ下がり、これから開く葉の芽が幹に近い所と枝の先端につきます。花と葉の場所がすみ分けられたうえに、枝の重なりも加わって、花がのれんのように見えるわけです(写真2)。実は、キブシは早春に花を咲かせられるように、昨年の秋頃から花芽をしっかりと用意してます(写真2右上)。
キブシは早春に咲く花らしく、ハナアブの仲間が好む黄色で蜜を出します。春にだけ姿を現すビロウドツリアブ(写真3)がよくやってきますが、メジロやヒヨドリなど花の蜜を吸う鳥もやってきます。きっと、虫や鳥たちにもよく目立つのでしょうね。
キブシは雌雄異株で、雄株は黄色いヤク(葯)をつけたおしべがある雄花を、雌株は緑色のめしべが目立つ雌花を咲かせます(写真4)。雌株は花の数が少なく、少し緑色がかっています。拡大してみると、雄花にめしべ、雌花におしべ、のようなものが見えますが、機能的に退化しているそうです。
最後に、キブシの名前の由来[1]ですが、キブシの実(写真5a)にはタンニンが多く、お歯黒などの原料としてヌルデの虫こぶ(写真5b)(クリックすると 自然の不思議 No.76 ヌルデの虫こぶの穴・・・にジャンプします)から作られる五倍子(フシ)の代用品として、使われたことにちなんでいます。なのでキブシは漢字で「木五倍子」と書きます。昔の人にとってキブシは身近な木だったのですね。余談ですが、キブシは節が多い木だから「木節」と書くのかなと思っていましたが、キブシの幹には節がなく、丈夫で美しいため、傘の柄や木栓の材料になるそうです(写真6)[2]。
公園の桜並木は早くも葉桜になり始めましたが、山の春はまだこれから、キブシの のれんが出迎えてくれますよ。
(ます 2023/03/31)
【参考文献】
[1] 牧野日本植物図鑑インターネット版 原著 1940,1956、http://www.hokuryukan-ns.co.jp/makino/index.php
「実を五倍子の代用として用いる」が由来とされる。
[2] キブシ, 関東森林管理局 会津森林管理署 森林(もり)からのおくりもの
https://www.rinya.maff.go.jp/kanto/aizu/present/present20_/26.html
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